写真で見るたびに「これ、傾いてない?」と気になるマリーナベイサンズ。 「倒壊しないの?」という噂を耳にして、宿泊や観光を迷っている方も いるかもしれません。
結論から言うと、マリーナベイサンズは確かに傾いています。ただし、 それは設計ミスでも老朽化でもなく、最初から計算されつくした”意図的な傾き”です。 本記事では、なぜ傾けて建てたのか、本当に倒壊しないのか、その安全性の根拠までを、 事実ベースでわかりやすく解説します。
マリーナベイサンズは本当に傾いている?
3棟のタワーが約26度傾いている
答えは「はい」です。マリーナベイサンズは3棟の高層タワー(各55階建て・ 高さ約200m)でできていますが、この3棟が、それぞれ外側へ向かって 大きく傾いた状態で建てられています。傾きの角度は約26度とされ、 高層建築としては世界でも類を見ない大胆な設計です。
正面から見ると、3本の脚が「ハ」の字に開きながら立ち上がり、その上を 巨大な板(空中庭園)が橋のようにつないでいる——そんな独特のシルエットに なっています。だから写真でも実物でも「傾いて見える」のは当然で、 むしろ設計者の狙い通りの見え方なのです。
発想の元は「立てかけたトランプ」
このデザインを生み出したのは、カナダ系イスラエル人の建築家 モシェ・サフディ(Moshe Safdie)。発想の元になったのは、 トランプのカードを2枚立てかけ、その上にもう1枚を載せた形 だと語られています。2枚のカードが斜めに支え合い、上に屋根が乗る—— まさにマリーナベイサンズそのものの構造です。
「52度」「6.6度」など、ネット上の数値が食い違う理由
検索すると「傾き52度」「6.6度」「70度」など、さまざまな角度が 出てきて混乱しますが、これは「建設中に最も傾いた脚の角度」と 「完成後のタワーの傾き」「見た目の印象」が混ざって伝わっている ためと考えられます。建築・構造の資料で広く挙げられているのは 約26度です。正確な数値が必要な場合は、設計を担当した 構造エンジニアArupや公式情報など一次情報での確認をおすすめします。
なぜ「傾けて」建てたのか
わざわざ建てにくい傾いた形にしたのには、見た目以外にもいくつもの 理由があります。
理由①:巨大な空中庭園「サンズスカイパーク」を支えるため
マリーナベイサンズの象徴といえば、3棟の屋上をつなぐ空中庭園 「サンズ スカイパーク」。長さ約340m、地上約200mに浮かぶ このスカイパークには、有名なインフィニティプールや展望デッキ、 庭園があります。
注目すべきは、スカイパークの一部が北側のタワーから約66.5mも 外側に張り出している(カンチレバー構造)こと。これは公共施設 としては世界最長クラスの片持ち構造です。3棟を外側に踏ん張らせるように 傾けることで、この巨大な空中庭園を安定して支える土台になっているのです。
理由②:風の力を受け流す
高層ビルにとって最大の敵のひとつが「風」。マリーナベイサンズは 傾いた形と3棟に分けた構造によって、風の力を分散・軽減 する効果も計算されています。設計時には大規模な風洞実験が繰り返され、 強風下でも安全に立ち続けられるよう検証されました。
理由③:海への眺めを開き、街の「玄関」になるため
サフディは、湾沿いに「壁」のような一枚の巨大ビルを建てるのを避けたかった と語っています。3棟に分けて足元を大きく開くことで、建物の間から 海や街への眺めが抜け、シンガポールの新しい玄関口(ゲートウェイ) として機能するように設計されました。傾いた形は、景観と象徴性の両方を 満たすための答えでもあったのです。
本当に倒壊しないの?安全性の真相
「こんなに傾いていて大丈夫なのか」という不安は自然なものです。 しかし、倒壊リスクを心配する必要はまずありません。その根拠を整理します。
設計・施工は世界最高峰のチーム
デザインはモシェ・サフディ、構造設計は世界的エンジニアリング ファームのArup(アラップ)が担当しました。タワーの内部には 頑丈な鉄筋コンクリートのコアと耐力壁が組み込まれ、傾きによって生じる 横方向の力をしっかり受け止めるよう設計されています。施工は韓国の大手 建設会社が手がけました(「韓国の会社が建てた」という話の出どころは ここです)。
建設中は仮設の支柱とケーブルで支えた
傾いたタワーは、完成して3棟がスカイパークでつながって初めて 安定します。そのため建設中は、仮設の支柱(ストラット)と ケーブルでタワーを支えながら少しずつ積み上げるという、 非常に高度な工法がとられました。傾きは「行き当たりばったり」ではなく、 施工手順までミリ単位で計画されたものなのです。
シンガポールの厳しい基準+低い地震リスク+常時監視
マリーナベイサンズはシンガポールを代表する国家的ランドマークであり、 厳格な建築基準のもとで建設・維持されています。シンガポールは 大きな地震がほとんど起きない地域であることも、リスクが低い 大きな理由です。さらに、建物には傾きや変位を監視するための仕組みが 備えられ、定期的な点検・メンテナンスが続けられています。
室内は水平――「ビー玉が転がる」はウソ
「床が傾いているからビー玉が転がるのでは?」とよく言われますが、 これは誤解です。外観は傾いていても、客室・廊下・共用部などの 内部空間は通常の建物と同じく水平に保たれています。実際に 宿泊しても、傾きによる生活上の不便を感じることはほぼありません。
「倒壊する」は噂・都市伝説
SNSなどで「倒壊するのでは」「限界が近い」といった話が広まることが ありますが、これらは視覚的なインパクトの強さから生まれた 噂・都市伝説の域を出ません。現時点で公式に安全性が否定された 事実はなく、世界中の観光客が日々宿泊・来訪しています。
世界の「傾いている建築」と比べてみると
傾いた建物自体は、世界に数多く存在します。有名なのはイタリアの ピサの斜塔ですが、こちらは地盤沈下による”意図しない傾き”。 一方、マリーナベイサンズの傾きは最初から設計に組み込まれた “意図的な傾き”という点で性質がまったく異なります。
「傾いている=危険」ではなく、「なぜ傾いているのか(意図的か・補強 されているか)」こそが安全性の分かれ目。マリーナベイサンズは、傾きを 前提に構造を組み立てた現代建築の代表例といえます。
傾きを写真で楽しむ|おすすめ撮影スポット
せっかくなら、この”傾き”を写真でも楽しみたいもの。傾きが最も ダイナミックに見えるスポットをご紹介します。
マーライオンパーク(対岸)|全体の傾きを1枚に
マリーナ湾を挟んだ対岸のマーライオンパークからは、3棟が外側に 開く全体のシルエットをきれいに収められます。マーライオンと 一緒に撮れる定番スポットでもあります。
プロムナード(真下)|見上げて迫力を強調
サンズ前のプロムナードから真下に立って見上げると、 傾いた脚が空に向かってそびえる迫力ある構図になります。広角レンズや スマートフォンの広角モードがおすすめです。
ヘリックスブリッジ|斜めの構図で傾きを際立たせる
DNA構造をモチーフにした歩道橋からは、湾と一緒に少し斜めの角度で 狙えます。傾きと水面、街並みを1枚にまとめられる絶景ポイントです。
傾く絶景を、実際に体感する
外から眺めるだけでなく、傾いたタワーの中に泊まり、屋上のスカイパークや インフィニティプールからの眺めを体感するのもマリーナベイサンズの醍醐味。 建物全体の見どころや楽しみ方は マリーナベイサンズ完全ガイド で、対岸のマーライオンと合わせた観光は マーライオン完全ガイド でご紹介しています。
まとめ|傾きは「不安の種」ではなく「設計の見どころ」
- マリーナベイサンズの傾き(約26度)は意図的な設計
- 巨大な空中庭園スカイパークを支え、風を受け流すための形
- 世界最高峰の設計・施工+厳しい基準+低い地震リスクで倒壊の心配はまずない
- 外観は傾いていても室内は水平(ビー玉は転がらない)
「傾いていて危ない建物」ではなく、「傾きを計算しつくした建築の傑作」。 そう知って眺めると、マリーナベイサンズの見え方が少し変わるはずです。

