山や海や川で「わあ」と思って撮ったのに、あとで見返すとなんだか平凡。風景写真でいちばん多い体験は、たぶんこれではないでしょうか。目の前の景色は確かに大きかったのに、写真になると小さく、色も浅い。
このページは、写真素材サイトを運営しながら2007年から同じ場所に通って風景を撮ってきた経験をもとに、「何を・どうそろえれば風景が風景らしく写るか」を初心者向けにまとめたものです。私が使っている機材は EOS Kiss X5(2011年発売)と EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(2014年発売)。どちらも最新ではありません。それでも十分に撮れます。大切なのは新しいボディより、レンズと光と、少しの設定です。
風景写真が「実際より地味」になる3つの理由
機材の話に入る前に、原因を押さえます。ここが分かると、何を買えばいいかが自然に決まります。
目とカメラは、明暗の見え方が違う
人の目は、明るいところと暗いところを見るたびに調整しています。だから「空も地面も両方きれいに見えている」。カメラはその調整をしません。空に露出を合わせれば地面は潰れ、地面に合わせれば空は白く飛ぶ。目で見た印象が写真に出ないのは、まずこれが理由です。
画面に入れすぎている
「全部きれいだった」ので全部入れる。すると主役がいなくなり、何を見ればいいのか分からない写真になります。風景写真こそ「何を見せたいか」を1つ決める必要があります。広い景色を撮るのに、絞り込む——矛盾しているようですが、ここが分かれ目です。
光の時間帯を選んでいない
正午の光はまっすぐ上から落ちてきて、影が短く、立体感が出ません。同じ場所でも、朝夕に行くだけで別の写真になります。これはお金がかからない、いちばん効く工夫です。
引いて撮る:広角レンズの選び方
風景写真で最初に欲しくなるのが広角レンズです。標準ズームの端(18mmあたり)でも撮れますが、もう一段引けるだけで写真は変わります。
APS-Cなら「10〜18mm」で世界が変わる
私が使っている EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM は、APS-C専用の超広角ズームです。35mm換算で16〜29mm相当。標準ズームの18mm(換算29mm相当)と比べて、いちばん引いた10mm側は明らかに別物です。
空の広さ、道の伸び、木々の高さ——「その場に立っている感じ」が写るのは、この10mm側です。手ブレ補正(IS)とSTMが付いていて、実売も手が届く価格帯。最初の1本としては、これで十分すぎるというのが正直な実感です。
広角は「引く」レンズではなく「手前に置く」レンズ
広角の失敗でいちばん多いのが、「広く撮ったら全部小さくなった」。広角は遠くのものをさらに遠ざけるので、遠景だけを広角で撮ると、何も残りません。
コツは逆で、手前に主役を置いて、ぐっと近づくこと。足元の岩、手前の草、道の入口。近いものは大きく、遠いものは小さく写るのが広角なので、手前に何か置くだけで奥行きが出ます。「広く撮る」より「手前から奥まで見せる」レンズだと考えると、扱いやすくなります。
カメラを上に向けると、建物が倒れる
広角のもう1つのクセが歪みです。カメラを少し上に向けて高い建物や木を撮ると、上に行くほど後ろに倒れて写ります。人の目は補正して見ているので、写真で初めて気づきます。
避け方は単純で、カメラをできるだけ水平に構えること。それでも入りきらないときは、いっそ思いきり見上げて「倒れている」ことを意図的に見せる方が、中途半端に倒れているより締まります。水平・垂直がずれると広角ほど目立つので、グリッド線は常に表示しておくのがおすすめです。
★EF-Sマウントはフルサイズに付きません
購入前に1つだけ。EF-Sレンズは、キヤノンのAPS-C機専用です。フルサイズ機(EOS 5D系・6D系など)には物理的に付きません。逆に言えば、APS-C機なら超広角が安く手に入るということでもあります。
手前から奥までピントを合わせる(絞りとパンフォーカス)
花の写真は背景をぼかして主役を浮かせますが、風景はその逆です。手前の岩から奥の山まで、全部にピントが合っている状態——これをパンフォーカスと言います。
絞りはF8〜F11
やり方は簡単で、絞り優先(A / Av)モードにして、F値を8〜11あたりにするだけ。F値を大きくすると、ピントの合う範囲(被写界深度)が奥まで伸びます。広角レンズはもともと被写界深度が深いので、F8でもかなり奥まで合います。
絞りすぎると、逆に眠くなる
「じゃあF22まで絞れば完璧か」というと、そうはなりません。絞りすぎると回折という現象で、画面全体がわずかに甘くなります、。F8〜F11がいちばん解像すると覚えておけば十分です。
ピントは「手前から3分の1」に置く
奥の山にピントを合わせると手前がぼけ、手前に合わせると奥がぼけます。画面の手前3分の1あたりに合わせると、前後にバランスよく伸びます。細かい理屈(過焦点距離)もありますが、まずはこの目安で足ります。
空と水面を締める:PLフィルター
レンズの前に付ける円い「フィルター」のうち、風景でいちばん効果が分かりやすいのがPL(偏光)フィルターです。
PLは表面の反射を抑えるフィルターです。反射が消えると、空は濃い青に、葉はみずみずしく、水面は透けて川底が見えます。使い方は、フィルターを回して効き具合を目で見ながら調整するだけ。太陽に対して横(約90度)の方向でいちばんよく効きます。
注意が2つ。PLは光を少しカットするので暗くなります(シャッターが遅くなる)。そして広角で空を撮るとムラが出ることがあります——青の濃さが画面の左右で変わってしまう。10mmのような超広角では、効かせすぎない方が自然です。「かけっぱなしにしない」のがコツです。
時間を写す:長時間露光とNDフィルター
風景写真がいちばん「写真らしく」なるのが、シャッターを長く開ける撮り方です。動いているものだけが流れ、止まっているものは止まったまま写ります。
川や滝の水を滑らかにする
川や滝を1/1000秒で切れば、水は粒として止まります。1秒開ければ、白い糸になります。どちらが正解ということはなく、その場で感じた速さに近い方を選びます。
私が撮った上流の川の写真は前者——岩に当たって砕けた瞬間が、目で見たときの印象に近かったためです。同じ場所で「静けさ」を撮りたいときは、逆に長く開けます。同じ川が、シャッター速度だけで別の場所に見えます。
雲を流す
数十秒開けると、雲が流れた線として写ります。空がのっぺりして物足りない日ほど効きます。風の強い日が狙い目です。
明るい昼にはNDフィルターが要る
ここで問題が出ます。昼間は明るすぎて、シャッターを長く開けられない。F11まで絞ってISO100にしても、せいぜい1/15秒。真っ白になってしまいます。
そこで ND(減光)フィルター——レンズにかけるサングラスです。光の量を減らすことで、昼間でも数秒〜数十秒のシャッターが使えるようになります。濃度を変えられる可変NDなら1枚で幅広く対応でき、何枚も持ち歩かずに済みます。
秒数の目安と、可変NDの注意点
目安として、水を糸のように見せるなら1〜2秒、雲を流すなら15〜30秒。滝のように水量が多いところは1/2秒でも十分に流れます。まずは1秒で1枚撮って、足りなければ倍にしていくのが早道です。
可変NDには1つクセがあります。濃くしすぎると、画面にX字のムラが出ることがある——特に広角で顕著です。「効かせられるだけ効かせる」ではなく、ムラが出ない範囲で使うのが実用的な落としどころです。
三脚は「あると便利」ではなく「必須」
長時間露光と書いた時点で、三脚は前提になります。1秒でも手持ちでは止まりません。風景で三脚を持たないという選択は、実質「長秒を諦める」ということです。
選び方の目安は3つ。
- 耐荷重:使うカメラ+レンズの重さの2倍程度を目安に。余裕があるほど安定します
- 雲台:風景は水平が命。自由雲台は素早く決められ、3ウェイ雲台はきっちり合わせられます。どちらでも構いませんが、水平器が付いているかは見てください
- 素材:アルミは安くて重い、カーボンは軽くて高い。まずはアルミで十分。持ち歩きを重視するならカーボン
もう1つ、地味ですが大事なこと。脚は太い段から伸ばす。細い先端まで伸ばすと、いちばん揺れやすい部分に全体重がかかります。
シャッターに触らない
三脚に載せても、シャッターボタンを指で押した瞬間にブレます。長秒ではこれが最後の敵です。
対策はレリーズ(リモコン)を使うか、セルフタイマーを使うか。私は夜景も長秒も、セルフタイマーで撮っています。2秒に設定して、押して、手を離す。それだけです。
正直なところ、最初にレリーズを買う必要はありません。セルフタイマーはどのカメラにも付いていて、追加費用はゼロ。夜景・イルミネーションのように長時間その場にいる撮影では、2秒待つ手間はほとんど気になりません。物足りなくなってから考えれば十分です。
光の時間帯:マジックアワーと光芒
機材の話はここまでにして、いちばん効くのに無料の話を。
朝夕の斜光
太陽が低い時間帯は、光が横から差します。影が長く伸び、地形の凹凸が立体的に見える。同じ場所を正午と夕方に撮り比べると、機材を買い替えるより大きな差が出ます。
ブルーアワーは日没後
日が沈んだ直後、空がまだ青く残っている20〜40分。空の青さと街の明かりが釣り合う唯一の時間帯です。真っ暗になってからでは、空はただの黒になってしまいます。夜景を撮るなら、日没前に現地に着いておくことです。
光の筋(光芒)が出る条件
森や雲の切れ間から光の筋が差す——あれは空気中の細かい水滴やほこりに光が当たって散乱しているから見えています。つまり、からりと晴れて空気が澄みきった日ほど、光の筋は見えにくい。朝方の湿った空気、雨上がり、霧の日が狙い目です。
そして太陽そのものを画面に入れないこと。葉や幹でわずかに隠すか、画面のすぐ外に置くと、筋が残ります。
夜景を撮る
夜景は、これまでの話が全部つながる被写体です。
三脚+低ISO(100〜200)+絞りF8〜11+長秒。ISOを上げてノイズを増やすより、シャッターを開けた方がきれいです。ピントはオートでは迷うので、遠くの明かりに合わせてマニュアルに切り替えると安定します。
注意点は明かりの白飛び。夜景は暗いのでカメラは全体を明るくしようとしますが、そうすると照明やイルミネーションが白い塊になります。露出はマイナスに振る——「思ったより暗い」くらいが、結果的に明かりの色が残ります。
もう1つ、夜景で写真の印象を大きく変えるのがホワイトバランスです。オートのままだと、カメラが街の明かりのオレンジを「白」に戻そうとして、空の青まで抜けてしまうことがあります。「太陽光」に固定すると、街の暖かいオレンジと空の青のコントラストがそのまま残ります。RAWで撮っておけば後から変えられるので、迷ったらRAWで。
撮ったあとに困らない小物
SDカード:長秒とRAWなら「速さ」も効く
風景でRAWを使うなら、書き込み速度(UHS-Iで十分、動画も撮るならUHS-II)と容量、そして信頼できるメーカーを選びましょう。長時間露光は1枚あたりの待ち時間が長いので、書き込みが遅いと次の1枚に進めません。安すぎる無名カードは書き込みエラーの原因になります。予備を1枚持っておくと安心です。
レンズのお手入れ:風景は雨・雪・砂が付く
屋外中心の風景撮影は、レンズに雨滴・雪・砂・潮風が付きます。汚れたらいきなり拭かず、まずブロアーで砂やホコリを吹き飛ばし、それからクリーニングクロスやレンズクリーナーでやさしく拭くのが鉄則。砂粒が付いたまま拭くとレンズを傷つけます。
予算別・最初にそろえる優先順位
「全部いっぺんに」は必要ありません。費用対効果の高い順に並べるとこうなります。
- ①三脚:長秒・夜景・ブルーアワーが全部これ次第。ここを飛ばすと、他が効きません
- ②PLフィルター:空・水面・葉で効果が分かりやすい。1枚目のフィルターならこちら
- ③広角レンズ:APS-Cなら10〜18mmクラス。「その場に立っている感じ」が出ます
- ④NDフィルター:昼間の長秒をやりたくなったら。可変NDが1枚で済みます
- ⑤小物(SD・お手入れキット):安いので最初からそろえて構いません
そして何より、お金のかからない**「時間帯を選ぶ・手前に主役を置く・絞りをF8〜11にする」**の3つを先に身につけること。機材はそれを後押しする道具です。
風景写真の素材も見る
私が撮りためた風景写真は、それぞれのページで公開しています。作例としてどうぞ。
- 川の写真素材 — 上流の急な流れと、川底の石まで見える澄んだ水
- 木漏れ日の写真素材 — 暗い森に差し込む光芒。光の筋が出る条件も
- 雪景色の写真素材 — 白の露出
- 花を撮りたい方へ:花の写真の撮り方|マクロレンズと機材選び
- 育てるところから始めたい方へ:花の育て方に必要なもの
よくある質問(FAQ)
Q. 高い最新カメラを買わないと風景は撮れませんか?
いいえ。このページの写真は 2011年発売の EOS Kiss X5 と 2014年発売の EF-S10-18mm で撮っています。優先すべきはボディより、三脚と、引けるレンズと、時間帯を選ぶことです。
Q. 標準ズームの18mmと、広角の10mmはそんなに違いますか?
違います。35mm換算で29mm相当と16mm相当——数字では2倍もありませんが、画面に入る範囲はかなり変わります。ただし遠景だけを10mmで撮ると何も残りません。手前に主役を置いてください。
Q. PLとND、どちらを先に買うべき?
PLが先です。空・水面・葉で効果を実感しやすく、晴れた日ならいつでも使えます。NDは「昼間に長秒をやりたい」と思ってからで間に合います。
Q. レリーズは必要ですか?
最初は不要です。セルフタイマー2秒で同じことができます。当社も夜景はセルフタイマーで撮っています。
Q. 三脚は安いものでもいいですか?
「安い」より「軽すぎない」を見てください。1kgを切るような軽い三脚は持ち運びは楽ですが、風景でいちばん多い風に負けます。耐荷重に余裕があるものを選び、それでも不安なときはセンターポールにバッグを吊るすと安定します。
Q. スマホでも風景写真は撮れますか?
撮れます。時間帯を選ぶ・手前に主役を置く・グリッド線で水平を出す——この3つはスマホでも同じように効きます。三脚(スマホホルダー付き)を使えば、夜景モードの精度も上がります。