
秋のお彼岸のころ、田んぼのあぜ道や土手を真っ赤に染めて咲く彼岸花(ひがんばな)。じつは球根で増える植物で、家庭でも育てられます。ただ、ほかの花とは一年の過ごし方がかなり変わっていて、そこを知らないまま育てると「葉ばかり出て花が咲かない」と戸惑うことになります。
この記事では、球根の植え方と植える時期、花が終わったあとに出てくる葉の扱い、そして咲かない原因までをまとめます。当サイトは彼岸花をあぜ道や川沿いで撮影してきたので、そこで見てきたこともあわせてご紹介します。
先にひとつだけ:彼岸花には毒があり、とくに球根に多く含まれます。観賞するぶんには問題ありませんが、植え付けや掘り上げで球根を扱ったあとは手を洗い、小さなお子さまやペットが口に入れられる場所に球根を置かないようにしてください。くわしくは 彼岸花の毒|成分・症状・触ると危険? をご覧ください。
彼岸花は「花」と「葉」が入れ替わる植物
彼岸花を育てるうえで、まずここを押さえておくと迷いません。彼岸花は花と葉が同時に出ません。
秋のお彼岸のころ、葉が一枚もない状態で花茎だけがすっと伸びて花が咲きます。花が終わってしばらくすると、こんどは細い葉が地面から出てきて、そのまま冬を越します。春の終わりごろに葉が枯れ、夏のあいだは地上に何も残りません。
この性質から「葉見ず花見ず(はみずはなみず)」と呼ばれることもあります。つまり、夏に地上が空っぽになっても枯れたわけではなく、地中の球根が休んでいるだけです。ここを枯死とかんちがいして掘り返してしまうのが、いちばん多い失敗です。
彼岸花の栽培カレンダー
一年の流れを整理すると、次のようになります。地域や年によって前後します。
- 9月中旬〜下旬:花茎が伸びて開花。花の見ごろは数日から1週間ほど
- 10月〜11月:花が終わり、細い葉が出てくる
- 12月〜4月:葉のまま冬越し。日光を受けて球根に養分をためる時期
- 5月〜6月:葉が黄色くなって枯れる
- 6月〜7月:休眠期。地上に何もない。植え付け・植え替え・掘り上げの適期
- 8月:地中で花芽の準備が進む
当サイトの撮影記録では、10月上旬に撮った写真も残っています。お彼岸の時期がひとつの目安ではあるものの、その年の気温や場所によって開花は前後するようです。
球根の植え方
植える時期
適期は葉も花もない休眠期、6月〜7月ごろです。この時期なら球根を掘り上げても株を傷めにくく、秋までに根を落ち着かせられます。
園芸店やホームセンターで球根が並ぶのは夏から秋にかけてが中心です。手に入れたら、乾かして保存せずできるだけ早めに植えてください。彼岸花の球根は乾燥に弱く、置いておくと傷みやすいためです。花が咲いたあとの株を植え替える場合は、花が終わってから葉が出るまでのあいだに行います。
球根は通信販売でも手に入ります。庭やあぜ道のようにまとまった面積に植えるなら、数がある混合タイプが扱いやすいです。球根には毒があるので、届いたら子どもやペットの手が届かない場所に置き、植えたあとは手を洗ってください(→ 彼岸花の毒)。
植える深さと間隔
ここは意外と情報が少ないのですが、実務でいちばん最初に迷うところです。
目安として、球根の頭が土に隠れて、深さ5〜10cmほどになるように植えます。深く植えすぎると花が上がりにくくなり、逆に浅すぎると乾燥や霜の影響を受けやすくなります。迷ったら浅めのほうが無難です。
間隔は10〜15cmほど空けます。彼岸花は分球して自然に増えていくので、最初から詰めて植えると数年で混み合ってしまいます。芽が出る側(先のとがったほう)を上に向けて植えてください。
土と植え場所
土はあまり選びません。ただし水はけのよさは大事で、夏の休眠期に土がいつも湿っていると球根が傷みます。粘土質で水が抜けにくい場所なら、腐葉土や砂を混ぜて改良しておくと安心です。
場所は日当たりのよいところから半日陰まで対応します。あぜ道や土手で群生しているのを見てもわかるように、乾きすぎない土壌で、夏場に強い西日が当たり続けない場所が向いています。落葉樹の下も、夏は日陰になり冬から春は日が差すので、彼岸花の生活サイクルに合っています。
植えたあとの管理
水やり
地植えなら、植え付け直後をのぞいてほとんど水やりは要りません。雨だけで十分育ちます。
鉢植えの場合は、葉が出ている秋から春のあいだは土の表面が乾いたら水をやります。逆に葉が枯れた夏の休眠期は水を控えます。休眠中に水をやり続けると球根が腐る原因になります。
肥料
肥料をやるタイミングは、彼岸花の生活サイクルとセットで考えるとわかりやすくなります。球根を太らせているのは、秋から春にかけて葉が出ている期間です。したがって、花が終わったあとと葉が伸びている時期に緩効性の肥料を少量与えるのが理にかなっています。
夏の休眠期に肥料をやっても吸収されません。地植えで元気に育っている株なら、無施肥でも毎年咲きます。
病害虫
彼岸花は病害虫の心配が少ない植物です。球根に毒成分を含むためか、食害を受けにくいと考えられています。強い薬剤を用意する必要はほとんどありません。
花が終わったあと──葉を切らないこと
ここが彼岸花でいちばん間違われやすいところです。
花が終わって出てくる細い葉は、翌年の花のための養分を作る器官です。冬のあいだ地面に葉が寝そべっていると見た目が気になり、草と一緒に刈ってしまう方がいます。ですがこの葉を切ると球根が太れず、翌年の花が減るか咲かなくなります。
葉が自然に黄色く枯れるまで、そのまま残してください。枯れて茶色くなってからなら、取り除いても問題ありません。庭の見た目が気になる場合は、冬に葉が広がることを前提に植え場所を決めておくのがおすすめです。
彼岸花が咲かない主な原因
「葉は出るのに花が咲かない」というのは、彼岸花でとてもよくある相談です。考えられる原因を、確認しやすい順に並べます。
- 植えてから1〜2年目:植え付け直後は根を張るのに力を使い、咲かない年があります。数年待つと咲きはじめることがあります
- 葉の時期に葉を切ってしまった:前項のとおり、球根が太れていません
- 深く植えすぎている:花茎が上がりにくくなります
- 日当たりが足りない:葉が出ている秋から春に日光が届いていないと、球根が育ちません
- 球根が混み合っている:分球で増えすぎると、一つひとつの球根が小さくなって花が減ります。数年に一度の掘り上げで解消します
- 夏に水が多すぎた:とくに鉢植えで起こりやすい失敗です
複数が重なっている場合もあります。まず「葉を切っていないか」「日が当たっているか」の2つを確認し、それでも咲かないなら掘り上げて球根の混み具合を見るのが、遠回りの少ない順序です。
植えっぱなしでも咲く?
結論として、彼岸花は植えっぱなしでもよく育つ球根植物です。掘り上げて保存する必要はありません。
当サイトが彼岸花を撮影してきたのは、田んぼのあぜ道や川沿いの土手です。手入れをする人がいるとは考えにくい場所ですが、毎年きちんと花を咲かせています。肥料や水やりを欠かさないより、生活サイクルを邪魔しないほうが大事だということが、こうした場所の彼岸花を見ているとよくわかります。
ただし、植えっぱなしにしていると分球で球根が増えて混み合ってきます。花が年々小さくなったり数が減ったりしてきたら、そのときに掘り上げて間隔を空けてやれば十分です。
増やし方(分球)と植え替え・掘り上げ
日本で広く見られる彼岸花は種子ができないとされ、増やし方は分球になります。地中の球根が自然に分かれて数を増やしていくので、放っておいても株は広がります。
意図的に増やす、あるいは混み合いを解消するなら、3〜5年に一度、休眠期(6月〜7月)に掘り上げて分けます。手で自然に分かれる部分で外し、傷つけないように植え直してください。掘り上げたら乾かさず、その日のうちに植えるのが安全です。
球根を長く保存するのには向かない植物なので、「掘り上げて秋まで置いておく」という扱いはしないほうがよいでしょう。
鉢植え・プランターで育てる
鉢植えでも育てられますが、地植えよりは気を配る点が増えます。
彼岸花の球根はやや大きく根も伸びるため、深さのある鉢を選びます。浅い鉢だと根が回りやすく、花が付きにくくなります。用土は水はけのよい草花用の培養土で十分です。
鉢植えでいちばん失敗が多いのは夏の水やりです。地上に何もないので枯れたと思って水をやり続けると、休眠中の球根が傷みます。葉が枯れたら水を控え、涼しく雨の当たりにくい場所に置いてください。2〜3年たって根が詰まってきたら、休眠期に植え替えます。
彼岸花とリコリスの違い
園芸店では「リコリス」という名前でも売られています。混乱しやすいので整理しておきます。
リコリス(Lycoris)は、彼岸花を含む植物のグループ(属)の名前です。彼岸花はそのなかの一種で、学名は Lycoris radiata。つまり彼岸花はリコリスの一員で、対立する別の植物ではありません。
ただし園芸で「リコリス」として並んでいるものには、黄色い花のショウキズイセン、白やピンクの花が咲く種類など、彼岸花とは別種のリコリスも含まれます。「リコリス」の札だけを見て買うと、赤い彼岸花とは違う花が咲くことがあるので、種類名まで確認してください。
育て方は、同じリコリス属であればおおむね共通しています。品種によって開花時期や耐寒性に差があるため、白や黄色の種類を育てる場合はその品種の説明も確認しておくと安心です。
なお「リコリス」という言葉は、お菓子や生薬に使われる甘草(リコリス)とも同じ表記になります。園芸の話をしているときは別のものだと考えてください。
育てるときの注意
彼岸花は丈夫で手間の少ない植物ですが、2点だけ気をつけたいことがあります。
ひとつは毒です。全体に毒成分があり、とくに球根に多く含まれます。触るだけで危険というものではありませんが、球根を扱ったあとは手を洗い、掘り上げた球根を出したままにしないようにしてください。小さなお子さまやペットがいるご家庭では、植え場所も考えておくと安心です。
もうひとつは増えることです。分球で年々広がっていくので、狭い花壇にほかの草花と混ぜて植えると、数年後に窮屈になります。ある程度まとまった場所を割り当てるか、鉢で区切って育てるのが扱いやすい方法です。
この記事の写真について:掲載している彼岸花の写真は、すべて当サイトが実際に撮影したオリジナル素材です。無料写真・フリー素材としてダウンロードしてお使いいただけます(ユーザー登録・著作権表記は不要/商用利用OK)。
よくある質問
彼岸花の球根はいつ植えるのがよいですか?
葉も花もない休眠期、6月〜7月ごろが適期です。球根を手に入れたら乾かさず早めに植えてください。
彼岸花の葉は切ってもよいですか?
切らないでください。秋から春に出る葉が翌年の花のための養分を作ります。自然に黄色く枯れてから取り除いてください。
葉は出るのに花が咲きません。なぜですか?
植えて1〜2年目、葉を切ってしまった、深植え、日照不足、球根の混み合い、夏の水やりが多すぎたなどが考えられます。まず葉を切っていないか、日が当たっているかを確認してください。
植えっぱなしでも大丈夫ですか?
大丈夫です。掘り上げて保存する必要はありません。花が減ってきたら混み合いのサインなので、休眠期に掘り上げて間隔を空けてください。
彼岸花とリコリスは違う花ですか?
リコリスは彼岸花を含むグループの名前で、彼岸花はその一種です。ただし園芸で「リコリス」として売られているものには別種も含まれるため、種類名を確認してください。
夏に地上部が何もなくなりました。枯れたのでしょうか?
枯れていません。夏は休眠期で、地中の球根が休んでいます。掘り返さずそのままにしてください。
まとめ
彼岸花は、球根を植えて生活サイクルを邪魔しなければ、あとは毎年勝手に咲いてくれる植物です。押さえるところは3つだけです。休眠期の6月〜7月に、深さ5〜10cmで植える。花のあとに出る葉は、枯れるまで切らない。夏に地上が空っぽになっても掘り返さない。
あぜ道や土手で誰の手入れも受けずに咲いている姿を見ていると、この花に必要なのは世話よりも放っておく勇気なのだろうと感じます。
彼岸花のことをもっと知る
👉 ほかの花の育て方や花言葉は 花とガーデニングのはじめかた からどうぞ。